大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和26年(ナ)12号 判決

原告 日吉宗能

被告 石川県選挙管理委員会

一、主  文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は「昭和二十六年四月二十三日施行された石川県鳳至郡穴水町長選挙の効力に関し原告からした訴願を棄却した被告委員会の裁決を取消す。右町長選挙を無効とする。訴訟費用は被告委員会の負担とする。」との判決を求めその請求の原因は、原告提出にかゝる訴状の記載によると次のとおりである。

昭和二十六年四月二十三日施行された穴水町長選挙の効力に関し原告は同年五月六日穴水町選挙管理委員会に対し異議の申立をなしたところ同委員会は同月二十七日附で右異議申立を棄却する旨の決定をした。そこでさらに原告は被告委員会に訴願をしたのであるが被告委員会も亦訴願を棄却する旨の裁決をなし原告は同年七月二十日該裁決の交付をうけた。

しかしながら本件選挙においては左に述べるような選挙の規定の違反があるから本件選挙は無効であり右裁決は取消さるべきものである。すなわち、

第一、本件選挙に立候補した者は原告と訴外白藤秀四郎の二名であつた。元来原告は穴水町所在の「瑞源寺」の住職を勤めるものであるが仏教の寺院住職を呼ぶのにその氏名を呼ばないでその寺号を呼ぶのは日本全国における習慣である。従て穴水町選挙民間においても原告をさして「瑞源寺」もしくは「ずんげじ」と呼び右は原告の通称と認むべきである。

ところで本件選挙に際し無筆文盲等の理由によりいわゆる代理投票を申請した者の内補助者に対し原告に対する投票を希望して「日吉宗能」もしくは「日吉」又は原告の右通称たる「瑞源寺」もしくは「ずんげじ」と記載してくれと委嘱した者が多数あるにかゝわらず故意に詐術を弄し委嘱者の意思を無視してすべて他の候補者たる「白藤秀四郎」の氏名を記載して投函せられた違法がある。このことは投票立会人や右代理記載をした者がみな右白藤秀四郎の推薦者であるかもしくはその同派同腹の者であつたこと及び投票中「瑞源寺」「ずんげじ」と記載されているものが一票も無かつたことなどに徴して明白である。

第二、穴水町選挙管理委員会委員長は代理投票の申請があつた場合に当該選挙人の投票を補助すべき者を定めないで自ら代筆した事実がある。これは公職選挙法施行令第三十九条に違反するものである。

第三、本件選挙における投票立会人はことごとく(三人以上)他の候補者白藤秀四郎の推薦人もしくはこれらと同派同腹の者を以てこれに充てたのであり右は公職選挙法第三十八条違反である。けだし穴水町においては町民は正式に政党に入党し所属している者は比較的少ないのであるが保守伝統的な色彩が濃く親戚の系統が団結することが強く、その団結したものは同一政党その他の政治団体に属する者と同等以上に強力なものであり投票立会人となつた者は候補者白藤秀四郎派に団結しているものであるからである。

以上の理由によつて本件選挙は違法無効と信ずるから前記請求の趣旨どおりの判決を求める。

被告委員会代表者は主文同旨の判決を求め答弁として次のとおり述べた。

原告主張事実中その主張のとおりの適法な異議申立及び訴願がなされその主張のとおりの決定及び裁決がなされたことは認めるがその余の事実は争う。本件選挙においてなんらの違法の点がないから右裁決はもとより正当である。以下原告主張の各事実に対し反駁を試みる。

第一について。投票立会人がたといすべて白藤秀四郎の推薦者もしくはその同派同腹の者であつたとしてもこれによつて代理投票の不正が行われたものと断ずることはできない。又無筆文盲者が「瑞源寺」「ずんげじ」と代筆してくれと依頼したにもかゝわらず代理投票の補助者が日吉宗能と代筆した事実があつたとしてもそれは選挙人の指示する同一人をむしろ正確に表現したに止まり少しもさしつかえないことである。従てたとい「瑞源寺」「ずんげじ」という票が一票もなかつたからといつてこれによつて代理投票の不正があるとはいえない。

被告委員会の調査したところによれば代理投票の手続において選挙の規定に違反した事実は少しもないのみならずすべて選挙における投票の秘密はこれを侵してはならないことは憲法に明記されているところであるからたとい選挙人が任意にその投票した候補者の氏名を陳述したとしてもこれを以て選挙争訟の証拠とすることは許されないのである。

第二について。穴水町選挙管理委員会委員長は投票管理者を兼ねていたものであり同人は適法に補助者を定めて代理投票を行わしめていたことはまちがいない。

第三について。本件選挙の投票立会人となつた者が原告主張のような事情で他の候補者白藤秀四郎派に団結しているとしても「同一の政党その他の政治団体」に属する者と拡張類推することはできない。従て本件の場合公職選挙法第三十八条第四項違反はありえない。

以上によつて本件選挙に違法の点がないことを明にしたがなお本件選挙において当選人白藤秀四郎は二千二百六十九票、原告は千五百二十八票の各得票であり、代理投票の総数百四十六票のすべてになんらかの瑕疵があつてこれを前者の得票からさしひくとするもなお前者の得票は原告の得票よりはるかに多いことが明であるからこの点からみても本件選挙は無効となりえない。

よつて原告の請求は速に排斥せらるべきものである。

三、理  由

本件選挙の効力に関し原告から適法なる異議申立及び訴願がなされこれに対しその主張のとおりの決定及び裁決がなされたことは当事者間に争のないところに属し本訴が適法の期間内に提起されたことは記録上明らかである。

そこで本件選挙において原告主張の如き選挙の規定違反があるかどうかをしらべる。

第一について。この主張は要するに代理投票の申請をした選挙人が原告への投票を委嘱したにかゝわらず補助者によつてその意思が歪曲せられて他の候補者白藤秀四郎と記載せられたというにある。

仮りにそういうことがあつたとしてもたかだか当該の投票の無効を来たし延いてそれがため当選無効の原因となるに止まり選挙無効の原因とはなりえないと解すべきものであるがそのいずれであるにせよ、投票の秘密は憲法第十五条第四項公職選挙法第五十二条によつて保障せられているのであるから原告主張のような右事実はこれを認めるにすべがないといわねばならない。

よつてこの点に関する原告の主張はとうてい採用しえない。

第二について。これは原告の主張によれば単に「穴水選挙管理委員会委員長の不正」とあるけれども同人が投票管理者を兼ねていたとの主張を含むとみるのが自然であり、そのようにみても原告主張のような代理投票の不正については原告は立証をしないのであるからこれを認めるに由がない。

よつてこの主張も採用するわけにいかない。

第三について。原告は「同一の政党その他の政治団体に属する者が一の投票区において三人以上投票立会人に選任された違法がある」と主張するものではないことその主張に照らして明白であるから本主張はそれ自体理由がない。詳言すれば原告主張のように団結している者の中からすべての投票立会人が選任せられたからといつてこれを禁止する規定はみあたらないのである。

よつてこの主張も採用のかぎりでない。

以上みたとおり原告の主張はすべて排斥を免れないのであるから本件選挙を無効とすべき違法の点は認められないものというべく従つて原告の本訴請求は失当として棄却すべきものとし民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 中島奨 白木伸 鈴木正路)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!